国立大学法人筑波技術大学 筑波技術大学は視覚障害者・聴覚障害者のための大学です。

研究・産学連携

質の高い大学教育推進プログラム(教育GP)

取組の概要

名称

「携帯型端末を用いた弱視学生の資格試験対策」

期間

平成20年度から22年度の3年間

概要

本取組は、ゲーム機や携帯電話に代表される携帯型端末の機動性と柔軟性を生かし、視覚に障害のある弱視学生の資格試験合格を目指した自習活動を支援するe-learning環境を構築するものです。

本学保健科学部は、視覚障害者のみを受け入れる国内唯一の高等教育機関であり、保健学科と情報システム学科から構成されます。保健学科には鍼灸学専攻と理学療法学専攻の2専攻があり、視覚障害学生が医療分野を学ぶという他大学にはあまり見られない特殊性を有しています。彼らが卒業後に自立した生活を営むためには、学士として卒業すると同時に国家試験に合格するという目標も達成しなければなりません。また情報システム学科の学生も、情報処理系の国家資格を在学中に取得することが、希望就職先への能力提示に影響を与えます。そのため、各学科では授業をベースに、独自の資格試験対策に取り組んでいるところです。

しかし、一般的な試験対策用の教材・参考書等は視覚障害者が利用しづらい形態のものが多く、現在は拡大読書器の利用や大きなフォントを用いた印刷など、担当教員が独自に様々な工夫を凝らしているのが実状です。

概要を説明したポンチ絵

そこで本取組では、無線LANの使える携帯型端末を利用した資格試験対策用のe-learning環境を構築することで、学生の自習活動を支援することを目指します。将来的には全盲の学生の利用も検討しつつ、本取組では主に弱視学生を対象としています。携帯型端末はパソコンと異なり画面自体を容易に顔に近づけることが可能なため、弱視学生も比較的情報を取得しやすいと考えられるわけです。また、携帯型端末を用いることで学生のモチベーション向上や参加形態の多様化なども期待されます。

平成20年度の活動

e-learning環境構築

e-learningサーバを導入し、寄宿舎を含む学内から無線LANや有線LANを用いてコンテンツにアクセス可能な環境を構築しました。

携帯型端末の使い勝手の調査

携帯型・小型の端末でブラウザが利用できるもの機種についてe-learningサーバのコンテンツを読み取ることができるか調査しています。弱視学生の眼の状態はそれぞれ異なるため、一概にどの端末が良い、と言うことは出来ませんが、例えばPSPやDSといったゲーム用端末に内蔵されるWebブラウザなどの場合、内蔵フォントの大きさに限界があるため、サーバ側でいくら大きなフォントを指定していても、表示される大きさに限界があります。また DSブラウザの場合は、2つある画面の片方を拡大表示させたりすることが出来るといった特徴があり、PSPは画面の大きさ自体が大きいというメリットはあります。

PSPとiPodtouchの表示比較

一方、iPod touchのsafariを用いると約1.5cm角まで大きなフォントが利用できました。マルチタッチの操作を用いて画面を拡大することも容易です。しかし拡大読書器のように上下左右に動かさなくてはいけなくなるので、文字を読む際改行位置から左に戻る操作が難しい場合もあるでしょう。
ちなみに上の写真はPSP-3000とiPod touch2Gで表示した例です。PSPの方はこの大きさのフォントが最大となります。iPodの方は、まだ大きくなります。

コンテンツの入力作業

資格試験向けの学習を進めるにあたり、過去問題を解くことは重要です。平成20年度は各資格試験の実施機関から許可を得て学内でのe-learningコンテンツへの入力をスタートしました。

平成21年度の活動

コンテンツの拡充と専門家による問題解説文の入力

国家試験の過去問題に取組むことができるよう、20年度に引き続きこれまでの国家試験データの入力を進めました。そして、それらの問題の解説部分を鍼灸師のに入力してもらい、実践的なコンテンツの拡充に努めました。

IT自習エリアの構築

これまであまり活用されてこなかった学生寄宿舎共用棟ラウンジをIT自習エリアとして構築しました。利用しにくかった簡易ソファーセットを撤去し、コンピュータを設置したカウンターテーブルやミーティングテーブルに入れ替えることで、授業の合間や放課後に学生たちが集い、自学自習を進めると共に情報交換しやすい空間にしました。

e-learning環境の授業利用

授業教材やアンケート実施の媒体としてe-learningサーバを授業においても利用しました。

平成22年度の活動

コンテンツの拡充と専門家による問題解説文の入力

国家試験の過去問題に取組むことができるよう、21年度に引き続きこれまでの国家試験データの入力を進めました。そして、それらの問題の解説部分を鍼灸師のに入力してもらい、実践的なコンテンツの拡充に努めました。

小テスト自動配信システムの開発

実際に運用をしてみると、教員サイドの利用モチベーションとコンテンツ作成に問題があることが分かりました。これは、他大学等でも同様であると思われます。そこで、教員の利用を促すために小テスト自動配信システムを開発しました。小テスト自動配信システムとは、予め登録された過去の資格試験問題等から、ジャンル別にランダムに問題を選定し、学生のe-learning アカウントに送付するものです。ジャンルや問題数などを細かく指定でき、さらに学生が解答した後にグラフ化された成績情報が一覧表示されます。

自動配信システムの図

これにより、コンピュータ操作が得意でない教員でも気軽にe-learning システムを授業に活用できるようになり、学生の理解度の把握にも役立てられるようになりました。