朝日小学生新聞2025年10月9日付4面 SDGsがわかる ともにいきる 記事始まり SDGs(持続可能な開発目標)がめざすのは「だれ一人取り残さない」こと。おたがいを尊重し、障がいがある人もない人も、ともに参加できる社会を「共生社会」といいます。今回からの連載では、視覚障がい者と聴覚障がい者のための大学である筑波技術大学の、共生社会の実現に向けた取り組みを紹介します。(奥苑貴世) 学長の石原保志さんに話を聞きました 目や耳に障がいがあると、勉強や学校生活でどんな困りごとがあるでしょうか。視覚障がいでは、本や板書の文字が読めなかったり、学校内の移動が難しかったりします。聴覚障がいでは、先生やまわりの人たちが話すことが十分にわからないかもしれません。 筑波技術大学の特徴は、二つの「環境」です。一つは、障がいがあっても学ぶことに集中できる環境です。 だれもが必要な情報を得られるようにすることを「情報保障」といいます。例えば点字やアナウンス、手話や字幕などです。最近は音声を文字に、文字を音声に変えて伝えるデジタル技術も進んでいます。筑波技術大学では、先生たちは障がいのある人もない人もいて、授業ではこれらの情報保障を取り入れています。 また、聞こえ方や見え方などは人によってちがいます。少人数で授業をするので、それぞれの障がいの困りごとに合わせやすくもなっています。 もう一つは、いっしょに学ぶ人たちの環境です。障がいがあっても、一般の小中高校や大学で学ぶ人も多くいます。障がいがあってもなくても、同じ場で学ぶことを「インクルーシブ教育」といい、筑波技術大学学長の石原保志さんは「障がい者にも健常者にも、良い影響があります」といいます。 「一方で、健常者の中にいると『自分だけが見えない・聞こえないから、努力をしないと置いて行かれてしまう』と感じている障がい者が少なくありません」と石原さん。「筑波技術大学では、同じ障がいがある人たちが集まり、近い立場でおたがいの個性から刺激を受け、高め合える。そこで力をつけて、社会に出てほしい」 大学は、障がい者自身が、共生社会の「つくり手」になることをめざしています。石原さんは、障がい者の学びや社会参加について専門的に取り組んできました。法律や制度の改正、デジタル技術の進歩などさまざまな面から「障がい者を取りまく社会は良い方に変わってきた」と話します。 「昔は、障がいがあると、かぎられた職業や業務につくのが当然だと考える人も多かった。今は、健常者とともに社会で活躍する人たちが増えています。けれども、生活やコミュニケーションにおいて、社会にはまだまだバリア(かべ)があります」  バリアをなくすには、周囲の理解や支援は大切です。でも、それだけではなく「障がい者が自ら発信して、まわりと協力して、実力を発揮できる環境をつくれることが必要」だといいます。 共生社会をつくることは、障がいのある人たちだけのためなのでしょうか。だれでも年を取ると、耳が聞こえにくく、目が見えにくくなります。事故や病気で障がいをもつこともありえます。 視覚障がいのある人の転落事故を防ごうと、駅のホームドアの設置が増えています。テレビの災害情報やニュースの字幕放送もよく見かけるようになりました。これらは、障がいがあってもなくても、多くの人にとって安全で便利なものです。 障がいがある、ないにかかわらず、ともに生きる社会には「多様な視点があり、新たな価値観やアイデア、創造性が生まれる。それらがやがて社会全体を幸福にします」と石原さんは話します。 記事終わり 以下、写真の説明 手話を使ってグループで話す授業 筑波技術大学提供 点字を使って授業をする様子 筑波技術大学提供 筑波技術大学では、学生が学校生活を安全・快適に送れるように、さまざまな設備も整えられています。 視覚障がいがある学生たちの校舎にある、さわってわかる案内図。授業をする校舎は「ロの字形」で、目が見えなくても迷いにくくなっています。筑波技術大学提供 聴覚障がいのある学生たちの校舎は、ガラス張りのかべが多く、見通しが良くなっています。チャイムの音や非常ベルの音が聞こえなくてもわかるように、点滅するランプがあります。 写真の説明終了