2025年10月22日 東京新聞 朝刊 朝刊茨城版 17頁 見出し テコンドー星野萌選手21歳。 初の世界へ踏み出す。 大学に進み、競技再開。 見出しここまで。 用語説明 デフテコンドーは、空手とキックボクシングを合わせたように対戦するキョルギ(組手)と、防御や攻撃の動作を組み合わせたプムセ(型)がある。基本ルールは聴者と同じで、合図はランプなどで伝える。 韓国や東南アジア諸国が強豪。プムセでは17種類の方のうち8種類を習得。うち直前に表示された2種類を1種類90秒で演武する。技の形や立ち方などの正確性と、キレや強さ、力強さなどの表現力を採点する。会場は東京都中野区総合体育館。星野選手のプムセ個人女子は11月22日。 説明ここまで。 記事本文ここから。 挑む。素早い突きや蹴りに、道着がバッ、バッと音を立てる。格闘技のテコンドーの中でも対戦するキョルギ(組手)と異なり、演武の正確性や表現力を競うプムセ(型)に出場する。 「世界と関われる舞台に立ちたい。同じ競技者と出会いたい」と昨年6月、国内にデフリンピック選手がいない種目でのトライアウトに参加し、代表に選ばれた。石岡市内の道場に連日通い、地元の小中学生らに交じって練習を続け、世界に初めて挑む。 指導する鈴木高広さん55歳は「1年半程度でよくここまで。まじめで根気がある。筋力も柔軟性も高まっている」と評価。指導に手話通訳はなく、口をはっきり動かし、近くで話す。同じ道場で中学1年の岩崎歩夢さん12歳は「大会では、キレがあってかっこいい演武を決めて。金メダルを」と応援する。 3歳の頃、お遊戯や友だちと遊んでいて、一人だけ笑っていないことに親が気づいた。感音性難聴のため大きな音が分かる程度で、補聴器を付けて生活する。 小学校の頃は土浦市内の水泳教室に通っていたが、ろう者は自分だけ。水にぬれるので補聴器を外す。コーチから泳ぐコツを教えられても聞こえず、分からない。友達は上級クラスに行くのに、自分だけ取り残された。 5年生の時、同じ施設でのテコンドー教室の様子が、休憩室のガラス越しに見えた。床の振動、蹴った時の衝撃を感じた。当時好きだったアニメの格闘シーンのよう。「かっこいいなあ。これなら、みんなと一緒にできるんじゃないか」と教室に通うようになった。 中学まで聴者と競技を続け、高校は水戸聾学校(水戸市)へ。通うのが大変で寮に入った。道場が身近になく、陸上競技を始めた。テコンドーでは競技中、補聴器を外す。うまく会話できず、置いてけぼりを感じたという理由もあった。 ろう者び通う筑波技術大(つくば市)に入ると、音声認識アプリなど意思疎通の方法を学べた。心残りのあったテコンドーを再開した。「高校では新型コロナウイルス禍で思い出をつくることもできなかった。大学では、何かに挑戦してみたい思いもあった」「小さいころはとにかく楽しいだけだった」が、競技者となると再び、コミュニケーションの壁に当たった。話す相手の言葉、気持ちが分からない。熱い思いにあふれ、きつい口調の指導者もいた。「空気が読めない、何もわかっていないと思われたのかな」 今年1月には合宿の前日に発熱。でも、聴者と一緒の合宿で、自分のために手話通訳がつく。申し訳ないし、費用もかかる。無理に参加し、初日に倒れた。 同じ競技者や大学の後輩が支えになっている。昨年10月に神奈川県内で開かれたろう者の大会で、他のプムセ選手に初めて会い「自分もその世界に入ったと実感できた」。優勝し「心の中で一歩前に踏み出せた感じ」を得た。 中学の時、学校を訪問したデフリンピック選手はキラキラしていた。当時は何の夢もなく、なんとなく過ごしていた。選手の話を聞き「大事なのは自分の意志なんだ」と思った。「私と同じように聞こえない子どもたちに、夢を追い続けて物事に当たる大切さを、行動を通して伝えたい。メダルを取って、テコンドーのファンを増やしたい」 聴覚障害のある選手たちの4年に1度の国際スポーツ大会「東京デフリンピック」(東京新聞など協賛)が11月15~26日、国内で初めて東京都内を中心に開かれる。世界のトップアスリートが集う大会に、聴覚・視覚障害者のための国内唯一の国立大、筑波技術大からは6人、卒業生を含めれば17人が挑む。うち、つくばゆかりの選手9人を7回にわたって紹介する。(この連載は大野孝志が担当します) ほしの もえ 2004年、阿見町出身。身長150センチ。筑波技術大産業技術学部綜合デザイン学科4年。霞ケ浦聾学校(阿見町)、水戸聾学校卒。小学1年で手話を習得した。好きな型は前蹴り。「手や足の先まで、しなやかに見えるから」。好きな食べ物は納豆やキムチなどの発酵食品。趣味は道の駅巡り、マラソン。 本文ここまで。 写真の説明。 練習の合間に、子どもの相手をしている様子。小さな子どもの蹴りを受けている。 蹴りの練習をしている様子。いずれも石岡市で撮影。 テキストここまで。