ホーム > 研究・産学連携 > 注目の研究~Notable Research of NTUT~ > vol.2:東洋医学独特な病態の映像化(H30.11.1)

vol.2:東洋医学独特な病態の映像化(H30.11.1)

2018年は漢方医学の国際化元年です

日本漢方や中医学などの東洋医学には、西洋医学にはない独特な考え方があります。必然的に病気のとらえ方も違います。元気がない、気が落ち込む、など身体の中の「気」の異常、あるいは血の気が引くなどの「血(けつ)」の異常、といった考え方は私たちの日常生活で使われる言葉としておなじみです。
 このような身体の状態(病態)は現代医学にはなく、これまで伝統医学でだけ用いられてきました。しかし近年、国際的に伝統医学の有用性や重要性が認められるようになり、今年公表された国際疾病分類第11版(ICD-11)では、日本漢方をはじめとする東アジア医学の伝統医学病名が収載されることになりました。ICD-11は世界中で病名の基準として使われるものであり、ここに収載されるということは東洋医学が国際的に認知されたことに他ならず、まさに漢方医学の国際化元年といえます。

でも漢方はよく判らないことが多いのではないですか?

広がりをみせる東洋医学ですが、その病態のなかには、現代医学では未だに解明されていないものがいくつもあります。血の異常である「瘀血(おけつ)」はこのような病態の代表的なものです。瘀血とは「停滞する血液」という意味であり、端的に言えば血管に血(ち)が流れない状態です。寒くなると指先が青白くなるような状態で、瘀血の結果冷え・のぼせに加え、肩こり・便秘・月経不順などが生じます。漢方では経験的にこのような病態があることを認識し、更に駆瘀血剤と言われる漢方薬で冷え・肩こり・月経不順などを治療してきました。いずれも日常的によくみる病態で一見単純に見えますが、そう簡単ではありません。例えば、血液が停滞すれば固まってしまい、血管は閉塞します。出血した血液が固まるのと同じです。ですが指先が青くなっても一般的には元に戻ります。また、一口に血管と言っても動脈から毛細血管を通って静脈に至るまで、その形態は全然違います。動脈は筋肉(平滑筋)で覆われているため、広がったり縮んだりすることができますが、毛細血管の太さは変わりません。現代医学的には血の流れが止まり、また流れるというのはかなり複雑な現象です。漢方や東洋医学がなんとなく「胡散臭い」と思われるのは、このように効果があることはわかっているけれど、なぜそうなのかがわかっていない、という点が多いことが大きな原因です。

私たちは東洋医学独特の病態を「見える」化しています

このような困った状態をどうにかするため、私の研究室では東洋医学独特の病態を映像化することを試みています。これまでに生物イメージングのプロフェッショナルである(株)タイムラプスビジョン社の協力の下、上述の瘀血病態の動物における映像化に成功しました(映像)。瘀血の病態では赤血球が凝集し塊ができることがこれまでに知られています。しかしこの状態ではやがて血管が詰まり閉塞してしまいます。私たちは、瘀血では血管の中に無細胞領域(cell free layer)といわれる、血球が含まれず血漿(血液から血球を除いた液体部分)だけが流れる部分が多く形成されることを映像から見出しました。この「血球はないけれど血漿は流れている」部分があれば、赤血球の塊ができても血管の太さを保つことができるため血管は閉塞しません。また平滑筋の有無にかかわらず動脈でも静脈でも起きうる現象です。このモデルに代表的な駆瘀血剤である桂枝茯苓丸を投与すると、無細胞領域はきれいに消失することもわかりました。これは今まで東洋医学の限られた概念だけであった瘀血病態を、実際に目に見える形で表したものであり、大きな説得力をもたらします。さらにこの現象を引き起こす詳細な機序として一酸化窒素(NO、生体内の強力な血管拡張因子)が関与し、桂枝茯苓丸は血管内皮細胞からのNO産生を増強することを世界ではじめて見出しました(画像)。NOは血管だけでなく赤血球や血小板にも作用することがわかっており、この結果は漢方薬の薬理機序の解明に大きく寄与します。
 私たちはこのようにして漢方独特の病態を現代医学的に解明し、漢方医学の国際化に貢献するとともに、その福利をおおくの人々にもたらしたいと考えています。

細動脈血管内皮細胞からのNO産生

動画、画像の説明
動画前半 動物モデルで再現された瘀血病態
画面上方の太い血管(青矢印)では血流が保たれていますが、ここから分岐した血管(赤矢印)では血流が停滞し瘀血病態を呈しています。
①個々の赤血球の大きさに比べて、血管の太さは充分に太いままですが、赤血球は画面下方に分岐する血管にはスムースに流れて行きません。
②これは赤血球の粘着能が亢進しているためであり、赤血球は「剥がれる」ようにして分岐血管へ断続的に進んでいきます。
③この部分では赤血球の塊の周囲を血漿だけが流れていく無細胞領域(cell free layer)が形成されています。
④この部分では血流が途絶しています。

 
動画後半 駆瘀血剤による瘀血病態の改善効果
瘀血病態に用いられる漢方薬「桂枝茯苓丸」を投与した後の、同じ部位の血管の映像です。太い血管から分岐した血管(赤矢印)でもスムースに血液が流れています。
①動画前半と比べて血管の太さはほとんど変わっていませんが、血流は大幅に増加しています。
②赤血球はスムースに分岐血管に進んでいきます。
③この部分では無細胞領域はかなり減少しています。血流は断続的です。
④この部分では途絶していた血流が再開しています。

 
画像
細動脈血管内皮細胞からのNO産生。緑色の蛍光に光る部分が内皮細胞です。駆瘀血剤投与後にNO産生が増加しています。

(保健科学部附属東西医学統合医療センター 教授 平山 暁/2018年11月1日)