感覚代行の目的とすること


文字を伝える
視覚障害者に文字情報を伝達するということは読書やパソコンなど情報機器の操作にとっても不可欠な問題である。画面に表れる文字テキストは音声変換すれば分かり易く、音声合成技術が進歩した現在ではこの方法が実用化されるようになってきた。これは、聴覚によって視覚情報の代行をすることである。
音声合成技術が未熟であった昔はこのような機能をオプトフォンという装置のように、文字空間の座標に対応して音程の変化で提示した。現在、このように音程変化で文字を伝える方式は認識が難しいという理由から好まれないが、音声変換し難いたとえば視環境を代行伝達するための音像情報提示に使われる。
一方、触覚で文字情報を提示する方式も音声合成技術にとって替わられたが、極めて意義深い読書装置であるオプタコンの存在を無視できない。この装置は現在でも市販されているが、その原理は超小型カメラ(CCDカメラ)で文字を写して、それを指先用の触覚ディスプレイに触振動刺激として提示する。漢字が混在する日本語の文章を代行伝達するには理解し難いという点で問題もあるが、普通文字(墨字)をリアルタイムで伝える方式を実用化した意義は大きい。
また、オプタコンの基本的な文字提示の方式は字形を一度に提示する同時提示モードによるが、さらに、読書時の文字入力用小型カメラの走査によって、違った提示モードを生み出すという効果は触覚のパターン認識特性に関する研究の道を開いた。こうした提示方式に端を発して、触覚情報提示モード が研究されて触パターン認識特性に貢献する方法が考えられるようになった。
一方、現在実用に耐える触覚を利用した文字伝達装置はペーパーレスブレイルである。これは、点字情報を表示するために開発された専用の触覚ディスプレイである。

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グラフやパターンを伝える
グラフやパターンなど形状的特徴をもった視覚情報は、言葉による文字化された表現で伝えるのはやっかいであり、また、不可能なこともある。それは、グラフやパターンには空間的特徴があり、それを文字表現するのが難しいことによる。そこで、空間的な表現を文字以外のメディアで伝達する方法が考えられている。
その1つは聴覚系を使って伝達する方法で、グラフやパターンの空間的特徴を音像に変換する。たとえば、視覚情報の持っている左側を左耳に、一方、右側を右耳に提示し、中央は両耳から聞こえるようにする。また、上方向の情報は高い周波数音で、一方、下方向は低い周波数音で提示するというものである。文字情報提示用のステレオトーナーのような方式である。音像提示に幾つかの試み的研究はあるが、残念ながらこの方式では現在のところ実用化されていない。
現在実用可能なのは触覚提示するものである。古くは触覚テレビ視―触覚変換器などによって研究がなされてきた。しかし、人間の触認知特性からハプティック知覚に依存する触覚ディスプレイの有効性が確かめられている。そこで、グラフやパターンを複数の精細な触知ピンの上昇で表現し、それを手指の能動的触認知で知ろうとする触覚ディスプレイが考えられてきた。2次元型パターン情報提示装置3次元型パターン情報提示装置などの触覚ディスプレがその目的のために開発されている。
さらに、パソコンを利用する聴覚障害者のためには、触覚マウスされている。これは、パソコン画面のカーソルの位置を知らせたり、描画の補助を目的として、マウスに振動子をとりつけたものである。

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視環境情報を伝える
盲人の単独歩行のためには白杖が古くから使われている。障害物を検出する最も身近な方法であるが、環境の段差や突起などが分かり難いという問題点がある。また、特定の目標に歩行者を誘導するという目的でもない。そこで、電子技術によって段差や突起、目標などの視環境情報を提示するという研究がなされてきた。障害物に近づくと警報を出したり音像が変化する装置として、超音波めがねやレーザー検出器具が開発されている。これらは、聴覚系に警報や環境音を提示するものが主体であるが、障害物に対する警報を触振動子を駆動させて伝えるというものもある。

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言葉を伝える
聴覚障害者にとって、はなし言葉を耳から認知することが困難である場合には手話が利用されている。また、口形情報から相手の発語を認知するという読唇手段も活用されている。こうした情報取得手段を支援するための聴覚代行器が研究されている。
視覚ディスプレイに会話情報を提示するものには、はなし言葉の持つ音韻的特徴を画面に提示するものが一般的である。眼鏡の一部に発光素子をつけたり、液晶やCRTに表示する。しかし、この方式で聴覚障害者の会話を代行することは難しい。それは、音韻的特徴のみのから複雑な話し言葉を知のが不可能なことによる。この方式の多くは、発語・発話の訓練器に使われる。すなわち、標準発声パターンと発声障害者は発した声の特徴を比較して、標準発声パターンに合わせようとするものである。
音声認識技術のデモンストレーションとして、話し言葉を認識した結果を文字で提示する会話情報伝達装置が現れるようになった。この技術を利用すれば、原理的には、文字が理解できる聴覚障害者には話し言葉を伝達することが可能である。しかし、試みの研究開発品は存在するものの、現在、実用的な音声認識装置が高価であるし携帯性にも乏しいため、聴覚障害者用の会話器にはなっていない。
触覚ディスプレイに提示するものとして有名なのがタクチュアルボコーダである。しかし、この方式でも豊富な話し言葉を伝達することは困難である。現在のタクチュアルボコーダは、発語・発話の訓練器に利用価値が認められている。
前項の音声認識型の会話支援装置のインターフェイス部を触覚ディスプレイにして、触覚から文字表現によって話し言葉を伝達するための装置も試作されている。

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音響情報を伝える
玄関のドアチャイム、電話のベル、火災警報機の警報など音響信号を聴覚障害者が認知する必要性も高い。こうした外界の音響情報を伝達するには、どんな種類の音響であるのかを識別する情報処理システムが必要である。一方、音響識別した結果を表示するインタフェースも必要である。現在、腕時計の文字盤に限定された幾つかの情報を視覚提示すると共に、腕時計の触振動で音響情報が到来したことを伝える装置が開発されている。

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その他
視覚や聴覚の情報を代行伝達するという問題は、日常生活において視・聴覚情報の必然性が高いため各種試みられている。しかし、触覚(皮膚感覚)、味や匂いの感覚を代行する事例も必要になっている。触覚は義手や義足に皮膚の感覚を植え込むような場合に必要でる。しかし、味や匂はそれらの感覚系障害者を支援するというよりも、むしろ有毒ガス情報の提示とか、旨いパンの焼け具合を伝えるとかいった領域において将来が期待される分野である。

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